未来に踏み出す-日本のサイクロトロン(その2)
20 July 2007 (Volume 2 Issue 7)
サイクロトロンの研究者が一同に会して、初めてのリングサイクロトロンの完成を祝った。
理研の4基目のサイクロトロンは、1990年の運用停止まで、日本の核物理学研究を24年間にわたって支えてきた。しかし、その運用が始まった1966年の直後から研究者は既に後継機を考え始めていた。
4基目のサイクロトロンは、磁極直径が160cmで、重イオンに対する核物理学者の関心が高まった1970年代中頃に運転が軌道に乗った。重イオンを加速できる日本で最初のサイクロトロンではあったが、比較的軽い元素のイオンしか加速できず、そのエネルギーも低レベルにとどまっていた。
世界中の研究者が理研と似た問題を抱えており、1970年代中頃から1980年代にかけて、より重い元素のイオンをより高いエネルギーまで加速する次世代加速器の建造が始まった。理研では、上坪宏道のチームが、2基の入射器と1基の分離セクター型サイクロトロン(「リングサイクロトロン」とも言う)を組み合わせる構想を推進し、水素からウランに至る周期表中の全ての元素の加速を目指した。
リングサイクロトロン系の開発は、規模の点でも予算の点でも巨大なプロジェクトだった。そこで理研ではプロジェクトの推進を段階的に行った。まず線型加速器であるRIken LineAC(RILAC)入射器が建設された。次いで1975年に理研はリングサイクロトロンの設計研究を開始し、1979年に総額135億円の予算を政府に申請した。巨額な予算であったため、その獲得には政府との厳しい交渉を経る必要があった。1980年、理研は予算を獲得した。
リングサイクロトロンは、4つのセクター電磁石がリング状に配置されており、従来のサイクロトロンよりも高エネルギービームを効率的に集束させることができる。 この系では、イオンを2基の入射器で加速してからリングサイクロトロンに入射する。その1基はRILAC、もう1基が扇形集束磁場(AVF)サイクロトロンと呼ばれるもので、後者は比較的軽い元素のイオンを加速するために設計されている。この2基の入射器とリングサイクロトロンを組み合わせることで、高エネルギーのビームを効率的に作り出せるようになる。
RILACは、1981年に世界初の周波数可変重イオン線型加速器(リニアック)として完成した。理研がリングサイクロトロンの運用を始めたのは1987年で、AVFサイクロトロンは1989年に運用開始した。これらの装置は、理研の第5世代サイクロトロン施設を構成している。
その後、この加速器施設では、新規開発された数々の重要装置が追加設置されていった。その一例が入射核破砕片分離装置(RIPS)で、リングサイクロトロンと組み合わせて使用する、世界初の本格的な高エネルギー放射性同位元素(RI)ビーム発生装置だった。これは、核構造研究や天体核物理学のさらなる進展に道を開いた。
その他のさまざまな分野でも重イオンビームは利用された。植物の突然変異誘発やがん細胞に対する重イオンビームの影響に関する研究などはその一例だ。
また理研の研究者は、2004年に初めて原子番号113の元素を発見した。これは、従来確認された元素の中で最も重く、RILACとガス充填型同位体分離器(GARIS)という新しい核分離器を用いて生成された。
放射性同位元素の重要性が高まっていることを認識する理研の研究者は、かつて「160cmサイクロトロン」が設置されていた場所に巨大なRIビームファクトリーを建設する野心的な計画を1995年に実施に移した。重イオンを使って、ウランまでの全元素について従来よりも高いエネルギーで3000種のRIビームを生成する計画である。また、RIビームファクトリーでは、既存のサイクロトロンやその他の装置に加えて、2基の室温リングサイクロトロンを増設し、世界最強を誇る超伝導リングサイクロトロンを建設している。核物理学の未踏の分野へ踏み込もうとしている理研の研究者は、今年末までにウランイオンを使った最初のRIビームの生成する予定だ。