History of RIKEN

時代を先取りした理研のナノサイエンス研究

07 March 2008 (Volume 3 Issue 3)

図1:理研の研究者が、2003年に和光市に開設されたナノサイエンス実験棟のクリーンルームを使って、マイクロファブリケーションに関するナノテクノロジー研究を行っている。

ナノテクノロジー研究は近年目覚しい発展を遂げ、近い将来、私たちの生活の質を大きく変化させると考えられている。ヒトの毛髪の直径の一万分の1という極めて小さな物質を操作する研究によって、医療、情報技術や環境の改善に役立つ新しい材料やデバイスが作られているのだ。理研は、過去30年間、このホットな研究分野で世界の最先端を走り続け、さらにその卓越した技術と研究を強化しつつある。

理研でのナノテクノロジー研究の歴史は、1976年、レーザー物理学者の難波進がシンクロトロン放射データの取得に成功したことに始まる。難波は、半導体表面に回路パターンを作成する技術、リソグラフィーの応用技術を開発するために、ナノテクノロジーの研究に着手したのだ。その数年後、エキシマレーザーアブレーションに関する世界初の論文を、理研の物理学者、河村良行が発表した。

そして1982年には、日本政府により「極微構造エレクトロニクス」プロジェクトが開始され、ナノ研究は全国的に拡がり始めた。

当時、理研では研究者が個別にナノ研究に取り組んでいたが、1986年になってこの分野で初の大規模研究プロジェクト「フロンティア・マテリアル研究プログラム」が立ち上がった。このプロジェクトでは、各サブチームが、量子デバイス、分子デバイス、生物学的デバイスなどの研究に取り組んだ。1991年以降、プロジェクトのテーマは、ナノエレクトロニクス材料、ナノ有機フォトニクス材料やエキゾチック・ナノ材料へと複雑さを増していった。

1993年、理研は、「原子スケール・サイエンジニアリング(sci-engineering)」(「science」と「engineering」を使った造語)の考え方に基づく戦略的研究プログラムを発足させた。その目的は、高度なナノテクノロジーと基礎研究を組み合わせて、材料のナノ特性や電子の挙動に関する理解を進めることだった。それと同時に、理研での半導体開発研究の焦点は、ナノスケールでの原子と分子の操作、計測、観察へ移行していった。こうした理研の研究活動は、他の研究機関や大学でのナノサイエンス研究の開始に弾みをつける結果となった。

この戦略的研究が理研で始まってから7年後の2000年、米国では「National Nanotechnology Initiative」が発表された。この計画では、ナノテクノロジーが21世紀初頭の有望な研究分野と位置づけられ、大きな関心を集めた。

競争が激化する中、日本政府は2001年に国家的な戦略的ナノテクノロジープログラムを始動させた。この動きに追随して、理研は、分野横断的な研究プロジェクトを進めるため「ナノサイエンス研究プログラム」を2002年に創設した。そして2003年には、最先端のナノサイエンス実験棟を和光市に建設し(図1)、21あるサブチームの研究者のための研究スペースを確保した。

過去数十年間に、理研の研究者は、さまざまな素晴らしい研究開発成果を残した。レーザー科学研究を行う研究室では、原子層を1層ずつ自由に付けたり、剥いだりする方法を実証し、別の研究室では新しいイオン散乱分光技術を開発して、表面原子の位置配列を調べた。また、生体高分子の研究者は、光の透過レベルを自己制御できる材料を開発した。また個々の高分子鎖を延ばすことで、タンパク質の構造をより詳しく観察するための「ナノフィッシング」という技術も開発した。別の研究チームは、通常とは異なる条件下で量子ドットを形成する方法を発見した。

さらに原子スケールメカニズムを研究しているグループは、従来1端子だった走査トンネル顕微鏡(STM)を多端子化し、画期的なSTMの開発に成功した。この顕微鏡は、原子や分子の挙動を個別的に観察し、操作する際に有効である。原子スケールマテリアルの研究者は、別のタイプのSTMを使い、金属表面上のCO分子に電子を注入して、分子を1つの場所から別の場所へ飛び移らせることに成功した(Profiles, RIKEN RESEARCH 2(5), 11-12参照)。

現在、理研の研究者は、ナノフォトニクスが近い将来、極めて重要な研究領域になると予想している。また、ナノサイエンスが対象とする材料は、既に無機材料でない材料、なかでも炭素系材料や生体材料へ発展している。急速に拡大するこの研究分野で、理研は、これまで蓄積してきた技術と知見をさらに深める体制をすでに確立している。