Research Highlights : Chemistry

結晶の中のジキルとハイド

13 July 2007 (Volume 2 Issue 7)

金属錯体分子の並び方を変えるだけで、電気伝導性と磁性という、まったく異なる2つの性質をあわせもつ分子結晶を作ることができる

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図1:「ジキル博士とハイド氏」のような分子結晶の構造。同じニッケル錯体からなり(黄色、緑色、灰色で示す)、異なる磁気的、電気的性質をもつ層が、交互に現れている。陽イオンが接着剤として2種類の層をはり合わせている(ヨウ素原子を紫色で示す)。

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材料の性質は、それが何からできているかだけでなく、その基本的構成要素である原子あるいは分子がどのように並んでいるかによっても変わってくる。例えば、ダイヤモンドとグラファイト(黒鉛)はまったく異なる物質であるが、どちらも炭素原子だけからできている。ダイヤモンドは電気の絶縁体であり、既知の物質の中で最も硬いものの1つであるが、グラファイトは電気を通し、非常に軟らかい。つまり、それぞれの材料を作る構成要素の並び方は、その性質に深い影響を及ぼしているのだ。

理研中央研究所(埼玉県和光市)の加藤礼三主任研究員は、配列が物性に及ぼすこうした影響を、分子結晶で研究している。ただし、材料を構成する物質は、炭素原子よりももっと変わったものである。「物質の電気的性質は、その構造に強く影響されます。個々の分子がどのように並べられるかによって、その集合体は電気伝導体にも絶縁体にもなるのです」と加藤主任研究員は説明する。

加藤主任研究員らは今回、導電材料や磁性材料に広く使われているニッケルを含む金属錯体の並び方を、結晶内で制御しようと試みた1。これらの分子は両端に硫黄原子をもち、その硫黄原子がヨウ素原子との間でハロゲン結合という分子間相互作用をすることがわかっている。

ブレークスルーは、加藤主任研究員の研究室の大学院生である高坂洋介が、負の電荷をもつニッケル錯体と、2つのヨウ素原子を含む正に帯電した分子とを組み合わせて、塩を作ったことによってもたらされた。この化合物のX線結晶構造解析の結果、ヨウ素と硫黄の相互作用により、ニッケル錯体の配列が大きく異なる2種類の層が交互に重なって結晶を作っていることが明らかになった(図1)。

結晶内の1つの層では、ニッケル錯体は積み重なり、強く結合した対(二量体)になっている。この層は電気の絶縁体であり、隣り合う二量体の電子のスピンが反対向きになろうとする磁気的な相互作用(反強磁性相互作用という)を示す。

もう1つの層では、ニッケル錯体が作る構造は柱状の積み重なり構造ではなく、1つの分子が2つの分子と重なって橋渡しをする部分をもっている。この層は4.2Kまで2次元的な金属伝導を示す。その結果、1つの結晶内で、絶縁性の層と金属性の層(各々ナノスケールの厚みをもつ)が交互に繰り返されていることになる。

以上のように、この2つの層は全く同じ分子から形成されているが、分子の並び方が異なるために物理的性質は著しく異なっている。「これは、分子版『ジキル博士とハイド氏』です。このようなふるまいを示す分子結晶が作られたのは、世界で初めてです」と加藤主任研究員は語っている。

  1. Kosaka, Y., Yamamoto, H. M., Nakao, A., Tamura, M. & Kato, R. Coexistence of conducting and magnetic electrons based on molecular π-electrons in the supramolecular conductor (Me-3,5-DIP)[Ni(dmit)2]2. Journal of the American Chemical Society 129, 3054–3055 (2007). | article |