Research Highlights : Biology

自閉症に関連する遺伝子異常を特定

24 August 2007 (Volume 2 Issue 8)

脳で発現する遺伝子の異常と自閉症とを結びつける知見が明らかに

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図1:正常型のCADPS2タンパク質(野生型CADPS2)は新皮質ニューロンの軸索を経由して輸送される(左)が、欠損型タンパク質(CAPS2 Δexon)は輸送されない(右)。

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自閉症の発症(感受性)と遺伝子との因果関係が解明された。自閉症は、対人関係やコミュニケーションの障害を特徴とし、比較的広く発症が認められる精神疾患である。3歳までに発症が確認され、多少の改善はあってもその後の生涯を通して障害が続くことから、家族への負担が大きく社会的な問題となっている。自閉症の発症の基盤には強力な遺伝的要因のあることが多くの研究から示唆されている。遺伝子マッピングを用いたこれまでの研究によって、ヒト7番染色体上に自閉症感受性に関連する領域が同定されているが、この領域内にある特定の遺伝子が自閉症と関連しているかどうかはわかっていなかった。

理研脳科学総合研究センター(和光)の古市貞一チームリーダー(TL)率いる研究チームは、この領域に存在する遺伝子の1つであるCADPS2が自閉症感受性に与える影響について研究を進めてきたが、今回、研究チームの一員である定方哲史基礎科学特別研究員は、最新の研究成果を『Journal of Clinical Investigation』誌に発表した1。

CADPS2CAPS2ともいう)は、脳の神経細胞の成熟や生存に影響する神経栄養因子などの積み荷タンパク質を含む分泌小胞の開口放出(エキソサイトーシス)を調節するタンパク質をコードしている。研究チームはCADPS2遺伝子が欠損したマウスを作製・解析した結果、CADPS2が神経栄養因子の分泌と正常な脳発達に必要で、その異常は自閉症感受性に関連する可能性を示した。

CADPS2欠損マウスの視覚、聴覚、嗅覚などの機能は正常であった。しかし、他のマウスとの社会的相互作用の頻度が低下しており、不慣れな環境では不安行動の亢進や行動量の低下がみられ、慣れた環境では多動がみられた。

結果として、CADPS2の欠損は、大脳皮質と海馬の一部のGABA作動性介在ニューロンや小脳プルキンエ細胞といった特定の神経細胞の発達や生存が損なわれるなど、自閉症患者の脳で頻繁に観察される異常に酷似した細胞レベルの異常を生じさせた。CADPS2が会合する分泌小胞に含まれるタンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF)を脳内に投与すると、欠損マウスにおけるこれらの細胞異常は回復した。

注目に値するのは、一部の自閉症患者において、健常者にはみられない長さの短い欠損型CADPS2が発現していたことである。この欠損型CADPS2タンパク質は、健常者がもつ完全長の野生型CADPS2と同様BDNFの分泌を促進した。ところが、ダイナクチン複合体に結合したのは野生型CADPS2のみだった。ダイナクチン複合体は、神経細胞に特異的な軸索という部位へ構成成分や小胞などを輸送する機構を調節する。そのため、野生型CADPS2は、神経細胞の軸索内に分布したが、欠損型CADPS2はみられなかった(図1)。

欠損型CADPS2の発現は、今回の研究対象とした一部の自閉症患者でのみ観察され、また、欠損型CADPS2が生じる原因究明は残された課題である。しかし、今回の研究成果によって、自閉症の発症および病理に関与している可能性のある特定遺伝子の存在が明らかにされたことは、この発達障害の理解に重要である。古市TLは「今回の研究成果は、自閉症の早期診断法や有効な治療法の開発に向けた足がかりとなるものです」と語っている。

  1. Sadakata, T., Washida, M., Iwayama, Y., Shoji, S., Sato, Y., Ohkura, T., Katoh-Semba, R., Nakajima, M., Sekine, Y., Tanaka, M., et al. Autistic-like phenotypes in Cadps2-knockout mice and aberrant CADPS2 splicing in autistic patients. Journal of Clinical Investigation 117, 931–943 (2007). | article |