リハビリテーション中の脳で何が起こっている?
18 April 2008 (Volume 3 Issue 4)
脊髄損傷からの機能回復には、本来使われていた脳内の部位とは異なる部位を使う必要がある。

図1:PETスキャナー内のサルと、回復の初期および安定期における代表的なPET画像。右手指の器用な動きに影響する脊髄損傷を受けた後に開始したリハビリテーションの初期には、脳内の同側部位と対側部位の両方で活動が高まる(左の画像)。回復安定期になると、同側脳内部位にみられた脳活動は低下して、対側部位が右手使用時に再び主要な活動領域となる(右の画像)。
enlarge imageサルを対象とした陽電子断層撮影(PET)による脳イメージング法によって、脊髄損傷からの回復に寄与する脳内での補償機構が明らかになった。
脊髄または脳に部分的な損傷を受けても、リハビリテーションや理学療法によって体の動きが回復するのは、無傷のまま残る脳内部位が動員され、損傷したニューロンの肩代わりをしてくれるためである場合が多い。しかし、脳内のどの領域で、いつ、損傷したニューロンを補う神経経路が再配線されるのかについては明らかになっていなかった。
理研神戸研究所分子イメージング研究プログラムの尾上浩隆チームリーダー(TL)は、この問題に取り組むために、自然科学研究機構生理学研究所の伊佐正教授たちとの共同研究で、脊髄を損傷したサルの機能回復過程をPETで追跡した1。
実験では3頭のサルを用い、右手で器用に小さい食べ物をつまむことができなくなるように、脳からの神経経路を脊髄レベルで切断した。しかし、その後のリハビリテーションで、3か月も経たないうちに指先の器用さが回復した。
脊髄損傷前の正常時のPETスキャンでは、右手を使ったときには、その手とは反対の左側(対側)の脳内部位のみで活動が高まることがわかった。しかし損傷後は、右手と同じ右側(同側)の脳内部位でも活動が高まって、損傷した神経経路を補うようになっていた。
そして最終的には、同側における脳内部位の活動は損傷した神経経路が治癒するにつれて低下し、対側の脳内部位が再び脳活動の主要な部位となった(図1)。実際、同側の脳内部位によるこの補償は回復初期にのみ必要であり、初期に同側部位を不活性化すると回復が妨げられるが、回復後期(安定期)に不活性化しても影響は認められない。
これらの結果から研究チームは、通常、手や足を使っているときは同側部位の活動が抑制されているが、損傷後はこの抑制が緩和され、損傷の影響を受けた手または足がある程度使えるようになるとともに、損傷した対側の神経経路の回復を促しているという結論に至った。そして、元の神経経路の配線が修復されるか、または次善の策として近傍にある他の神経経路の配線が動員されるか、どちらかのケースによって損傷した神経経路が十分に回復すると、同側部位は損傷前と同じように抑制されるようになるのだと考えられる。
尾上TLたちは、この回復過程をさらに解明することで、リハビリテーション中の脊髄損傷患者の回復状況をPETスキャンで追跡して、回復の見込みを予測できるようになるのではないかと期待している。
- Nishimura, Y., Onoe, H., Morichika, Y., Perfiliev, S., Tsukada, H. & Isa, T. Time-dependent central compensatory mechanisms of finger dexterity after spinal cord injury. Science 318, 1150–1155 (2007). | article |