Research Highlights : Physics

ニシンの骨の模様を見る

20 June 2008 (Volume 3 Issue 6)

魚の骨に含まれる鉱物やコラーゲンの微細構造が、X線により明らかにされた

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図1:ニシン科の魚、エールワイフ(Alosa pseudoharengus)。

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Source: New York State Department of Environmental Conservation

骨の構造の解明を進める理研のSPring-8大型放射光施設(兵庫県播磨市)、大阪大学、カリフォルニア大学(米国)の研究チームは、このほど、ナノメートルスケールの分解能が得られるX線法を用いて、エールワイフの筋肉内部に存在する骨組織を観察し、研究成果を『Physical Review Letters』誌に報告した。エールワイフはニシン科の小型の魚で、主に北米沿岸に生息している(図1)。研究チームは、論文において、骨の基質に鉱物が沈着する骨化の過程を説明する動的モデルを提唱している。

すべての骨は、軟らかいコラーゲン原線維、タンパク質、硬い鉱物相という3つの主要な要素からできている。骨の強度と機能は、この3つの要素が成長期に(特に分子レベルで)どのように組み合わされるかによって決まる。

エールワイフの骨組織には主としてコラーゲンやその他のタンパク質が含まれており、これらが細くまっすぐな基質を形成している。そして、このコラーゲン原線維のまわりにリン酸カルシウムという鉱物が沈着して、強靭な複合体を形成している。

研究者たちはこれまで、この鉱物の結晶の核が形成され、時間とともに成長していく過程を解明しようと努力してきたが、従来の光学顕微鏡では、この過程の構造を理解するのに必要な詳細画像を得ることができなかった。そこで、研究グループは、「レンズレス・イメージング」というX線法を用いた。この方法では、骨試料にコヒーレントX線ビームを照射する(コヒーレントX線は、レーザー光のように波長と位相がそろっているが、その波長はレーザー光に比べてかなり短い)。照射したX線が試料に当たって散乱し干渉パターンを生じると、原理的には、これを「逆変換」して試料の実像を得ることができる。

この逆変換の方法は複雑であるが、最終画像からは、驚くほどの量の詳細な構造データが得られる。理研の石川哲也センター長をリーダーとする研究チームは、エールワイフの骨化過程のさまざまな段階を調べた結果、隣り合うコラーゲン原線維のすき間で鉱物の核形成が始まり、最終的にはコラーゲン原線維の長さ方向に結晶が成長していくことを見いだした。そして、鉱物の核形成が進むにつれて、コラーゲンは膨張し、変形する。

研究チームは、最初に核形成された鉱物が、主として骨の強度を決定しているのではないかと提案している。こうした鉱物は体液とよく混ざり合い、また最初は組織内に比較的大きい空間があるので結晶の成長が可能だからである。

「今回の研究結果は、骨の複雑な構造に関するナノスケールでの理解を深めると同時に、硬組織工学と生体適合材料開発において重要な設計原理として利用できます」と石川センター長は話す。

X線イメージングは、今回の研究に限らず、生体材料の研究全般において、電子顕微鏡にて代わる魅力的な方法になるものと研究チームは期待している。

  1. Jiang, H., Ramunno-Johnson, D., Song, C., Amirbekian, B., Kohmura, Y., Nishino, Y., Takahashi, Y., Ishikawa, T. & Miao, J. Nanoscale imaging of mineral crystals inside biological composite materials using x-ray diffraction microscopy. Physical Review Letters 100, 038103 (2008). | article |