免疫細胞の過剰な活性化を防ぐ仕組み
19 December 2008 (Volume 3 Issue 12)
疾患を引き起こす細胞内シグナル伝達の暴走を回避する分子機構が明らかに

図1:TCR、CD3、LAPTM5間の相互作用。左の写真:刺激前のT細胞では、CD3ζ(青色)は細胞膜上に局在しているが、LAPTM5(緑色)およびリソソーム関連タンパク質LAMP1(赤色)はリソソーム中に存在している。右の写真:α-CD3によるTCR刺激後は、CD3ζがリソソーム区画へ移行し、そこでLAPTM5およびLAMP1とともに局在して分解される。
enlarge imageReproduced, with permission, from Ref. 1 © 2008 Elsevier Inc.
免疫細胞の一種であるTリンパ球は、病原性のある外来タンパク質を検出する表面受容体複合体(TCR)をもち、全身を循環しながら、侵入してくる微生物の警戒に当たっている。TCRは、異物タンパク質に遭遇すると、CD3シグナル伝達タンパク質との複合体を介して、サイトカインとよばれる炎症促進性の仲介物質の放出を調整する細胞内反応を引き起こす。
炎症が抑制されずに持続すると組織損傷が引き起こされるため、免疫系にはTリンパ球の活性化を厳密に制御する機構が備わっている。正常な状態では、Tリンパ球が刺激を受けると、細胞膜上にあるTCRが細胞内に取り込まれ、タンパク質分解を行うリソソームとよばれる細胞内小器官に送られて分解される。この機構により、Tリンパ球の不必要な活性化が妨げられ、TCRの発現は低レベルに保たれる。しかし、この「遮断」機構がうまく機能しないと、TCRおよびCD3タンパク質は絶えずリンパ球内に取り込まれては細胞表面へ戻っていき、再利用されて活性化状態が続く。
このほど、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(神奈川県横浜市)の王継揚チームリーダー(TL)の研究チームは、この「安全装置」というべきTCRシグナル停止過程にかかわるタンパク質を突き止め、Tリンパ球の持続的な活性化による損傷を防ぐ機構の一端を明らかにした1。
研究チームは、リソソームタンパク質LAPTM5に注目し、TCRシグナル伝達の停止に関与しているかどうかを調べた。というのも、これまでの研究より、LAPTM5の発現がTCR刺激後に変化することがわかっていたからである。そのためにまず、遺伝子操作によってLaptm5遺伝子を発現しない変異型マウスを作製し、Tリンパ球の免疫応答性を調べた。その結果、Laptm5欠損マウスに異物を皮下注射して刺激を与えると、過剰なTリンパ球駆動性の反応が認められた。
次に、LAPTM5欠損Tリンパ球でTCRが刺激されると、正常Tリンパ球と比較して細胞分裂の回数が多くなり、インターフェロン-γおよびインターロイキン-2というサイトカインが多量に分泌された。また、活性化後のLAPTM5欠損Tリンパ球では、野生型Tリンパ球に比べ、表面および細胞内のTCR、ならびにCD3サブユニットであるCD3ζ(ゼータ)が多量に発現しており、逆にLAPTM5を過剰に発現させた場合には、CD3ζの発現が低下することがわかった。
さらに、活性化したT細胞のリソソームには、TCRとCD3ζタンパク質がLAPTM5とともに局在しており、LAPTM5はCD3ζと物理的に相互作用していることが判明した(図1)。以上の結果より、LAPTM5がCD3ζと結合してリソソームに送り込むことで、CD3ζの分解を促し、TCRの細胞表面の発現を制御していると考えられた。
LAPTM5は、造血細胞で特異的に発現していることが判明した初めてのリソソームタンパク質である。LAPTM5がほかのリソソームタンパク質と協調してCD3ζの分解を調整しているのかどうか、また、ヒトの免疫疾患がLaptm5の変異と関連しているのかどうかは、現時点では不明であり、今後の研究が待たれる。王TLは、「予備実験より、LAPTM5はTCRシグナル伝達の負の調節に関与しているだけでなく、細胞表面における他の免疫関連受容体の発現を調節している可能性もあり、さらには、血球系のがんを防いでいる可能性があります」と語っている。
- Ouchida, R., Yamasaki, S., Hikida, M., Masuda, K., Kawamura, K., Wada, A., Mochizuki, S., Tagawa, M., Sakamoto, A., Hatano, M., Tokuhisa, T., Koseki, H., Saito, T., Kurosaki, T. & Wang, J.Y. A lysosomal protein negatively regulates surface T cell antigen receptor expression by promoting CD3ζ-chain degradation. Immunity 29, 33–43 (2008). | article |