Research Highlights : Chemistry

銅触媒で二酸化炭素をリサイクル

26 December 2008 (Volume 3 Issue 12)

温室効果ガスを有用な炭素資源として利用できるようにする新たな化学反応を開発

photo

図1:二酸化炭素は、地球温暖化を加速する温室効果ガスであると同時に、有用な炭素資源にもなりうる。

enlarge image

二酸化炭素を有用な炭素資源として利用可能にする反応の開発に、理研の研究チームが成功した。

化石燃料の燃焼(図1)に伴って発生する二酸化炭素(CO2)は、大気中に熱を閉じ込める強力な温室効果ガスであり、地球温暖化を加速する。そのため、二酸化炭素を大気中に排出せず、直接化学原料に変換するという発想は非常に魅力的である。

実際、工業界では長年にわたり、二酸化炭素を化学物質中の構成成分として利用している。鎮痛剤であるアスピリンの工業合成はその一例である。しかし、二酸化炭素の炭素-酸素二重結合は強く、切断が困難なため、その利用は限られている。

二酸化炭素を有機分子中に取り込ませるためには、多くの場合、リチウムやマグネシウムによって活性化された有機金属化合物が必要となる。しかし、これらの試薬は極めて反応性が高く、複雑な有機分子の特定の位置に二酸化炭素を取り込ませるには適さず、また、多くの官能基を分解し、多量の副生物を伴うという欠点がある。

化学者らは最近、より穏やかな有機ホウ素化合物を用いる反応を開発した。しかしながら、この反応に必要なロジウム触媒は、非常に高価であり、また反応性の高い官能基を分解しやすいという欠点を克服するにはいたっていない。

このほど、理研基幹研究所(埼玉県和光市)の侯召民主任研究員は、大石健研究員、西浦正芳研究員らとともに、反応性の高い官能基を壊さずに有機ホウ素化合物と二酸化炭素を反応させることができる新反応を開発した1

この際用いている銅触媒は、この反応を極めて有用なものにする。これまでのように強力なリチウム試薬を用いた場合では合成できない数種類の官能基をもつ複雑な分子も、この銅触媒を用いれば合成が可能である。「私たちは多種多様な金属化合物を試してみました。それらの中で、銅触媒が最もすぐれていました」と侯主任研究員は説明する。

研究チームは、反応系内に存在する重要な中間体分子を単離することにより、この触媒の作用機構を厳密に調べることにも成功した。それによると、まず銅触媒が出発物質中のホウ素原子と置き換わり、新たに銅-炭素結合を形成する。次に、二酸化炭素がこの結合中に挿入され、最後に銅触媒が除去されて、二酸化炭素分子はカルボン酸(-COOH)基として有機分子中に取り込まれる1

侯主任研究員によれば、各種の有機ホウ素化合物は市販されており、また研究室でも容易に合成できる、という。

「今回の方法は、商業用の大量合成にも適しています。CO2は再生可能な炭素資源の一種であり、これを効率よく利用する新しい反応や触媒を探究することは、非常に重要です。今後の我々の目標の1つは、自動車や化学工場からの排出されるCO2を有用な材料に変換できる触媒を見つけることです」と、同主任研究員は語っている。

  1. Ohishi, T., Nishiura, M. & Hou, Z. Carboxylation of organoboronic esters catalyzed by N-heterocyclic carbene copper(I) complexes. Angewandte Chemie International Edition 47, 5792–5795 (2008). | article |

    本ハイライトの原著論文の著者等については、理研基幹研究所 侯有機金属化学研究室までお問い合わせください。