植物のストレス抵抗性にみられる競い合い
30 January 2009 (Volume 4 Issue 1)
植物における生物ストレス防御と非生物ストレス防御という拮抗する二つの抵抗性が、分子レベルで明らかに

図1: ストレス応答で3つの植物ホルモンが形成する拮抗的シグナル伝達ネットワーク。環境ストレス、病害、傷害(草食性幼虫によるものなど)への応答は、それぞれアブシジン酸(ABA)、サリチル酸(SA)、ジャスモン酸(JA)によって制御されている。
enlarge image環境ストレス因子に対応している間、植物では侵入してくる病原体への対処能力が低下していることが、日本の植物生物学者によって初めて分子レベルで明らかにされた。
植物の生存は、病害抵抗性のほかに、物理的環境の変化に対する抵抗性にも依存している。植物は、細菌やウイルス、真菌などの生物的脅威に対する防御手段の1つとして、全身獲得抵抗性(systemic acquired resistance;SAR)という機構を有している。一方、温度や乾燥、塩分のような非生物ストレス因子への応答は、植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)の影響を受ける別のシステムによって制御されている。
これまでの研究によれば、そうした防御機構は互いに抑制的に働いており、その結果、物理的ストレスのもとでは病害抵抗性が低下するという。このほど、理研基幹研究所(埼玉県和光市)の仲下英雄ユニットリーダー(UL)が率いる研究チームは、こうしたシステム間の拮抗的なクロストークに関して、初めて詳細な検討を行った。モデル植物であるシロイヌナズナArabidopsisのさまざまな変異株を用い、上記二種類の抵抗性システムを活性化する実験を行い、ABAを介した環境ストレスへの応答が誘導されると、病害に抵抗するSAR機構の誘導が抑制されることを明らかにしたのである1。
仲下ULのもと、安田美智子協力研究員らは、シロイヌナズナを塩処理して非生物的ハザード(危害)を再現し、塩濃度が上昇するとSARによる病害抵抗性の化学的誘導が大幅に抑制されることを見つけた。さらに、環境ストレス応答によるSARの阻害は、ABAに依存していることも明らかにした。
研究チームはまた、ABAで前処理したシロイヌナズナでは、SARを誘導する化合物の存在下であっても、細菌感染に対する抵抗性が生じないことを示した。ABA処理が施された植物では、病原体に抵抗する遺伝子群が発現しなかったのである。このことは、ABA、ひいては非生物ストレス応答が、SARシステムに分子レベルで影響することを示している。同様に、SARが活性化すると、ABA応答性遺伝子およびABA生合成遺伝子の発現が抑制されることも明らかにした。
仲下ULらは、ABAと、それ以外の2つの植物ホルモン、サリチル酸(SA)とジャスモン酸(JA)からなる三つ巴の拮抗的な相互作用が、外界からの生物および非生物ストレスへの応答を制御すると考えている(図1)。病害ストレスおよび環境ストレスへの応答は、いずれも遺伝子発現と代謝変化のために大量のエネルギーを必要とする。そして生き残るためには、各応答に割り振るエネルギー量を調節する必要があるので、自然界ではこの拮抗的なクロストークが有用なのだろうと考えられる。「この拮抗的な相互作用のメカニズムが解明されれば、劣悪な環境での作物保護や農法の改善が可能となるかもしれません」と同ULは語っている。
- Yasuda, M., Ishikawa, A., Jikumaru, Y., Seki, M., Umezawa, T., Asami, T., Maruyama-Nakashita, A., Kudo, T., Shinozaki, K., Yoshida, S. & Nakashita, H. Antagonistic interaction between systemic acquired resistance and the abscisic acid-mediated abiotic stress response in Arabidopsis. The Plant Cell 20, 1678–1692 (2008). | article |
本ハイライトの原著論文の著者等については、理研基幹研究所・仲下植物獲得免疫研究ユニットまでお問い合わせください。