カシミール力は温度で変わる
17 April 2009 (Volume 4 Issue 4)
真空中の物体間に働くカシミール(Casimir)力は複雑な温度依存性を示す

図1:量子電磁力学によると、真空中におかれた帯電していない2枚の板は、真空の量子揺らぎを変化させ、その間にカシミール力とよばれる引力を生じる。
enlarge imageCopyright © 2008 Yampol’skii and Nori
帯電していない2つの物体が真空中に存在しているとき、外場がなければ、重力以外の力がその間に働くとは思えないだろう。しかし、量子電磁力学によるとそうではないらしい。真空中の微小な量子ゆらぎにより、カシミール力とよばれる引力が生じるとというのだ(図1)。
このほど、理研基幹研究所(埼玉県和光市)とウクライナ国立科学アカデミーの共同研究チームによって、カシミール力が温度に複雑に依存することが初めて示された1。カシミール力は、物理学と天文学に幅広く応用されており、将来はナノスケールの電気システムや機械システムにも利用される可能性がある。研究チームはさらに、この重要な相互作用の理論をめぐる論争に終止符を打つことができる実験も提案した。
ミシガン大学(米国)教授でもある理研のFranco Noriチームリーダー(TL)は、「カシミール力は、量子電磁場の真空振動の最も興味深い巨視的効果の1つです。この力は、物体(特に電気を通す金属)の存在により真空の量子揺らぎが変化するために生じるものです」と話す。
カシミール力が最初に予言されたのは、1948年のことであった。しかし、この力は物体間の距離が非常に近いとき以外は無視できるほど小さく、また実験がむずかしかったため、実際に測定されたのは、比較的最近のことである。カシミール力が、現実的に重要なパラメーターである温度にどのように依存するかを理解するためには、さらなる実験が必要である。
「温度が上昇するとき、真空中の金属物体には競合する2つの効果が働きます。まず、温度が上昇すると金属物体の電気伝導率が低下することにより、カシミール力は小さくなります。一方、電磁場の熱揺らぎから金属物体が受ける放射圧は温度の上昇に伴って増大し、これによってカシミール力が大きくなります」。ラフバラ大学(英国)にも所属する理研のSergey Savel'ev研究員は、こう説明する。
Nori TLらは、薄い膜と厚い板、および薄い膜と大きな金属球につき、それぞれの間に働くカシミール引力の温度依存性を導いた。その結果、カシミール力は、室温に近い温度では小さくなるが、より高い温度で熱放射効果が優勢になると再び大きくなる可能性があることを見いだした。
ウクライナ国立科学アカデミーにも所属する理研のValery Yampol'skii客員研究員は、「こうした温度効果が実験で観察されれば、真空中での電子緩和がカシミール効果にどう影響しているのかという基本的な問題が解決されるでしょう」と話す。同客員研究員によれば、このための実験は、厚い金属板どうしではほとんど不可能であるが、極端に薄い金属膜を使えば可能であるという。
- Yampol’skii, V.A., Savel’ev, S., Mayselis, Z.A., Apostolov, S.S. & Nori, F. Anomalous temperature dependence of the Casimir force for thin metal films. Physical Review Letters 101, 096803 (2008). | article |
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