Research Highlights : Physics

純粋できれいなスピン流

15 May 2009 (Volume 4 Issue 5)

電子スピンの拡散を利用して金属薄膜の磁化の向きを切り換える

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図1:純粋なスピン流を使って磁化の向きを切り換える素子を上から見た図。電子の流れIを、金の細線から磁化M1のパーマロイ薄膜に注入する。パーマロイ薄膜と銅の細線との接合部(左側の緑色の部分)にスピンが蓄積し、このスピンがもう1つの接合部(右側の緑色の部分)へと拡散して、そのパーマロイ薄膜の磁化M2の向きを反転させることができる。

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Reproduced from Ref. 1 © 2008 Macmillan Publishers Limited

金属薄膜の磁化の向きをこれまでにない革新的な方法を使って切り換えることに、日本の研究チームが成功した。これは、磁気を使ったデータ記憶装置やスピントロニクスという新しい技術の実現に向けた重要なステップになるだろう。

磁気記憶装置では通常、情報は磁気素子に蓄えられ、小さな外部磁場をかけて読み出される。しかし、それよりもっと便利なのは、スピン偏極した電子の流れを利用する方法である。この方法では、運動する電子が磁気素子にトルクを及ぼし、その磁化の方向を切り換えることができる。

ところが残念なことに、運動する電子は電気的ノイズを引き起こす場合があり、このため磁化の制御効率が低下する。このほど、理研基幹研究所(埼玉県和光市)の大谷義近チームリーダー(TL)らは、純粋なスピン流、つまり電荷の運動を伴わない電子スピンの拡散を利用することによって、この問題を克服することができた1

スピン流は、非局所注入という方法によって作ることができる。この方法では、電子の流れを金属と磁性体層の接合部に注入する(図1)。金属薄膜などの磁気素子が磁化されているとき、スピンはまず接合部に蓄積し、その後そこから拡散する。その結果、薄膜中のスピン分布が再び平衡に達する。この方法のポイントは、スピン流を利用して、スピンを蓄積させた点から遠く離れたもう1つの磁気素子の磁化に影響を与えることである。

これまで、こうした方法で純粋なスピン流を作ろうとする試みは、どれもあまりうまくいかなかった。そこで大谷TLらは、接合部の品質を最適化するために、素子のすべての層を1つの高真空チャンバーの中で順番に成長させるという方法をとった。それぞれの層を別々のチャンバーの中で成長させる従来の方法では、チャンバー間の移動の際に不純物が入り込んでしまうおそれがあるが、すべての層を1つのチャンバーの中で成長させることができれば、汚染を防げるからである。

今回の実験では、素子の電子輸送特性を調べることにより、最初の接合部に注入する電子の流れが十分に大きければ、もう1つの接合部で磁化を反転させるのに十分なスピン流が生成されることが証明された。特に重要な点は、同量の反対の向きの電子の流れを注入することにより、この磁化を元の向きに戻すことができるという結果である。

今回、大谷TLらが高品質の素子を製作し、純粋なスピン流を利用して磁化を制御するのに成功したことにより、極めて高度なエレクトロニクス素子の実現が可能になるかもしれない。研究チームは、電子のスピンのみを利用して、現在のエレクトロニクスとは異なる、まったく新しいタイプのトランジスターを製作することもできるだろうと考えている。

  1. Yang, T., Kimura, T. & Otani, Y. Giant spin-accumulation signal and pure spin-current-induced reversible magnetization switching. Nature Physics 4, 851–854 (2008). | article |


    このハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研基幹研究所単量子操作研究グループ量子ナノ磁性研究チームまでお問い合わせください。