Research Highlights : Biology

ヒューマノイドロボットで運動制御系を再現

29 May 2009 (Volume 4 Issue 5)

動物の運動制御系には多時間スケールの神経活動が重要なことがロボットの研究で明らかに

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図1:課題に取り組むヒューマノイドロボット。ロボットは物体を持ち上げ、左右に3回振ってから元の位置へ戻す。ロボット実験は、ソニー株式会社の協力を得て行われた。

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ロボット研究者は長年、階段を上ったり穴を掘ったりするといった、人間にとっては簡単な動きを実現することに挑んできた。しかし、こうした試みは、いまだ完全には成功していない。その理由の1つに、さまざまな状況における人間の行動が、非常に複雑で多様なことが挙げられる。これまでの研究から、確実で安定した人間の動作は、運動制御系の機能的な階層性によって実現されていると考えられている。機能的な階層性とは、低次の単純な作業が高次で統合されることで複雑な行動が可能となる、一種の分業機構である。

運動制御系の機能的な階層性は、これまで、「運動プリミティブ」とよばれる繰り返し使われる運動のパーツが、脳内の局所的なネットワークによって表現されていると考えられていた。しかしこのほど、理研脳科学総合研究センター(埼玉県和光市)の谷淳チームリーダーと山下祐一テクニカルスタッフ(TS)は、運動ネットワークにおける神経細胞(ニューロン)の時間特性が運動制御系の機能的な階層性に重要であるらしいことを明らかにし、『PLoS Computational Biology』に発表した1

研究チームは、多時間スケールの神経活動が運動の組織化に関与しているのではないかという仮説を、ロボットを使って検証した。実験でロボットは、種類は異なるが関連する一連の課題動作を生成するよう訓練された。課題動作は例えば、ブロックを持ち上げて左右に動かす課題(図1)、ブロックを持ち上げて上下に動かす課題、およびブロックの表面を片手で触るという動作であった。

「一般に、動物の多様な動きは、運動制御系の機能的な階層性に基づくと考えられています。こうしたシステムにより、運動プリミティブが柔軟に統合されるのです」と山下TSはいう。例えば、ロボットは、物体に触ること、物体を持ち上げること、物体を上下または左右に動かすことなどの運動プリミティブを適切に組み合わせることで、与えられた課題を実行できる。

今回の研究で重要なのは、機能的な階層性が、空間的な階層構造によるのではなく、神経ネットワーク活動の多時間スケールから生じるという点である。これまでの研究で提案されている空間的階層に基づくネットワークは、各運動プリミティブに相当する低次のモジュールと、選択ゲートのような付加機能によって運動プリミティブを選択したりや切り替えたりして組み合わせる高次のモジュールとが、局所的に別々な領域に表現されていると想定されていた。

これとは対照的に、ロボットを利用して再構成された今回の神経ネットワークは、変化する入力に対して速やかに反応する「速い」ニューロン群と、過去の状態に依存してゆっくり活動が変化する「遅い」ニューロン群からなっている。ネットワーク活動の解析によると、速いニューロン群は自発的に組織化して運動プリミティブを表現しており、また、遅いニューロン群は運動プリミティブを指令し活性化する役割を果たしているようであった。

これまで、運動制御系における機能的な階層性は、空間的階層構造に基づくという説が唱えられたが、一方で動物の運動皮質内にそうした空間的階層構造の存在を示す確実な証拠は見つかっていないという疑問があった。今回の結果から導き出された、時間スケールに基づく階層という新しい考えは、今後、運動皮質の機能的な階層性の理解に貢献するに違いない。

本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、脳科学総合研究センター・動的認知行動研究チームまでお問い合わせください。

  1. Yamashita, Y. & Tani, J. Emergence of functional hierarchy in a multiple timescale neural network model: A humanoid robot experiment. PLoS Computational Biology 4, e1000220 (2008). | article |