アミノ酸の香りに惹かれて
07 August 2009 (Volume 4 Issue 8)
アミノ酸への誘引行動を司る嗅覚神経回路がゼブラフィッシュで同定された
魚類が生息する水中には、いろいろな匂い物質が溶け込んでいる。これら匂いの信号によって、魚は捕食者からの逃避反応、餌や交配相手への誘引反応といったさまざまな重要な行動を起こしている。
鼻の奥にある嗅細胞は、鼻から嗅球(脳内の嗅覚情報の最初の中継点)へ神経線維を投射している。個々の嗅細胞は嗅覚受容体を1種類だけ発現しており、類似した構造をもつ匂い分子群に反応する。それら同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞は、嗅球の特定部位に向けて軸索を伸ばしている。
アミノ酸はタンパク質の構成要素であり、ゼブラフィッシュ(図1)をはじめとするさまざまな動物の食餌に含まれる重要な栄養素である。このほど、理研・脳科学総合研究センター(埼玉県和光市)の吉原良浩チームリーダー(TL)と小出哲也研究員を中心とする研究チームは、水中に存在するアミノ酸の匂いの情報をゼブラフィッシュの鼻から脳へと伝達して、アミノ酸への誘引行動を引き起こす嗅覚神経回路を同定した1。
研究チームは、遺伝子工学的手法を用い、さまざまな嗅細胞に蛍光タンパク質を発現する複数のゼブラフィッシュ系統を樹立した。そのうち1つの系統において、アミノ酸シグナルに応答することが知られている嗅球外側部に神経線維を投射する一群の嗅細胞が蛍光蛋白質を発現していることを見いだした。
空腹のゼブラフィッシュが泳ぐ四角い水槽の一角にアミノ酸を注入したところ、ゼブラフィッシュはアミノ酸を投与したところに長く滞在する傾向がみられた。これは、ゼブラフィッシュが食物の匂いの情報源であるアミノ酸へと誘引されたことを意味する。ところが、嗅球外側部に神経線維を投射する嗅細胞群のシナプス伝達を遮断すると、アミノ酸への誘引行動が消失した。つまり、この嗅細胞群の活性化は、ゼブラフィッシュをアミノ酸へ引き寄せるのに不可欠であることがわかった。一方、嗅球の別の領域へと軸索を投射する他の嗅細胞群のシナプス伝達を遮断した場合、アミノ酸への誘引行動には影響が認められなかったが、社会性フェロモンと推定される物質への誘引反応が減少した。
「遺伝学、解剖学、行動学的な方法を組み合わせることによって、多種多様な匂い『入力』とさまざまな行動『出力』を介在する個別の嗅覚神経回路の機能を調べることができるようになりました」と吉原TLは語る。現在、研究チームは、同様の手法を用いて、捕食者からの逃避反応、配偶者や近親個体の記憶など、他の嗅覚行動の基礎となる神経回路機構の解明に挑んでいる。
本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研・脳科学総合研究センター シナプス分子機構研究チームまでお問い合わせください。
- Koide, T., Miyasaka, N., Morimoto, K., Asakawa, K., Urasaki, A., Kawakami, K. & Yoshihara, Y. Olfactory neural circuitry for attraction to amino acids revealed by transposon-mediated gene trap approach in zebrafish. Proceedings of the National Academy of Sciences USA, published online 3 June 2009 (doi: 10.1073/pnas.0900470106). | article |
