Research Highlights : Chemistry

ぴったりはめ込んでエネルギーを伝達

28 August 2009 (Volume 4 Issue 8)

機械的に閉じ込めた分子を利用して、人工光合成システムのエネルギー伝達を解明する


機械的に閉じ込めたホスト・ゲストエキサイプレックスの生成を示す模式図(上)と、ホスト-ゲスト錯体のX線結晶構造(下)。

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Reproduced in part, with permission, from Ref. 1 © (2009) American Chemical Society

植物は何百万年も前から光合成を行い、太陽光のエネルギーを効率よく取り入れてきた。しかし、植物と同じように光からエネルギーを蓄える人工的な光合成システムの開発はたやすくない。そうした中、東京大学の藤田誠教授と理研基幹研究所(埼玉県和光市)の田原太平主任研究員が率いる研究チームは、かご状構造体の中にゲスト分子を機械的に閉じ込めた単純なシステムで、光合成の最初の段階を模倣することに成功し、その成果を『Journal of the American Chemical Society』誌に発表した1。

人工光合成システムのプロトタイプは、ドナー分子とアクセプター分子から構成されている。ドナー分子は光を吸収して光励起状態となり、その電子はより高いエネルギー状態へと移行する。アクセプター分子はこれらの高いエネルギーをもった電子を受け取り、蓄える。しかし、そのためには、ドナー分子とアクセプター分子がエキサイプレックスとよばれる励起状態の錯体を形成する必要がある。

しかし、このドナー分子とアクセプター分子を一緒にするのは難しい。というのも、光励起の際に両者が十分に接近し、かつ適切な位置関係になったときにしか、エキサイプレックスは形成されないからである。

藤田教授と田原主任研究員のチームは、光活性なドナー分子のビスアントラセンをかご状のアクセプター分子の中に固定し、エキサイプレックスが確実に形成されるようにした(図1)。自己集合により生じたかご状分子には電荷をもつパラジウム原子が6個含まれており、極めて水に溶けやすい。一方、かご状分子のパネルは有機分子からできており、水に溶かすとかごの中に疎水性の(水をはじく)空間が生じる。

論文の筆頭執筆者であるJeremy Klosterman研究員によれば、ドナー分子のビスアントラセンは水に溶けないため、高温ではかご状分子の疎水性空間の中に追い込まれる。溶液が冷えると、ビスアントラセンは大きすぎてかご状分子から出ることができず、閉じ込められたままの状態になる。

「合成の点からいうと、このシステムは信じられないほど単純なものです。ホストのかご状分子とゲストのビスアントラセンを水中で混合・加熱するだけで、エキサイプレックスが自己集合するのです」とKlosterman研究員はいう。

このホスト-ゲスト錯体を超高速レーザー分光で調べたところ、励起状態のビスアントラセンドナーのエネルギーの大半(82%)が、エキサイプレックス状態へと伝達されていることがわかった。Klosterman研究員によれば、これほど効率のよいエネルギー伝達が可能になったのは、ホストとゲストが機械的に結びつけられ、ぴったりとはめ込まれたことで、両者の間に強い相互作用が生じたからだという。

「本研究により、蛍光に関する重要な問題も解くことができました」とKlosterman研究員は語る。通常、蛍光分子はかご状分子に閉じ込められると光を発しなくなり、この理由は謎だった。しかし、今回の成果から、蛍光寿命が短くなるのは、エネルギーがホスト−ゲストエキサイプレックス状態へと伝達されるためだと推察できた。そこで研究者チームは、エキサイプレックスを形成しないゲスト分子を選び、水溶性の蛍光染料を新たに開発することに成功した。しかもこの蛍光染料は、生体センシングや生体イメージングへの応用に理想的な長い寿命をもつといい、この分野への応用が期待される。

本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研基幹研究所田原分子分光研究室までお問い合わせください。

  1. Klosterman, J.K., Iwamura, M., Tahara, T. & Fujita. M. Energy transfer in a mechanically trapped exciplex. Journal of the American Chemical Society 131, 9478–9479 (2009). | article |