Research Highlights : Biology

神経細胞の水先案内人

23 October 2009

細胞内シグナル伝達分子IP3の濃度勾配により、神経細胞の伸長方向が変化する


図1 左図:軸索の成長円錐が、NGF濃度勾配(青色グラデーション)に出会うと、内部に非対称なIP3濃度勾配(赤色グラデーション)が生じる。その結果、成長円錐は右方向(IP3濃度の高い方)へ回り込み、よりNGF濃度の高い方へ軸索が伸びていく。
右図:成長円錐内部では、NGFと軸索表面のNGF受容体(TrkA)との結合量の増加を介して、酵素ホスホリパーゼC(PLC)によるIP3の産生が増加する。その結果、Ca2+の放出が誘導され、軸索の方向転換が促される(右)。

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脳の発達に伴い、神経細胞は軸索を伸ばして標的となるほかの神経細胞を探すが、その間ずっと、細胞外の環境から化学シグナルの形で、伸長中の軸索が方向を変えるべき時期と場所を示す「指示」を受け取っている。その1つが、神経成長因子(NGF)タンパク質の濃度勾配である。軸索は、NGFの濃度勾配分布に接すると、濃度の最も高いほうへ向かって伸長していく。

「NGFは、軸索伸長を誘導する分子の中でも最も研究の進んだ分子の1つです。ただ、NGFに反応した軸索が伸長方向を変えるメカニズムは、長い間謎のままでした」と、理研脳科学総合研究センター(埼玉県和光市)の上口裕之チームリーダー(TL)は説明する。

NGFによる軸索の方向転換は、細胞内シグナル伝達分子であるイノシトール三リン酸(IP3)によって促進される。IP3は、NGFによる化学誘引機構に必須なカルシウムイオンの細胞内放出を制御している。このほど、上口TLを中心とする研究チームは、分子レベルで生細胞を画像化する最新手法を駆使し、この過程が軸索の伸長方向を決める機構に関して重要な成果を上げた1

研究チームは、IP3が存在すると特定の波長で蛍光を発するセンサータンパク質の遺伝子を、ニワトリの培養神経細胞で発現させた。そして、個々の神経細胞が、伸長中の軸索の先端部である成長円錐の近傍のNGF勾配にどのように反応するかを観察した。すると、成長円錐内部ではIP3が非対称に分布し、より高濃度のNGFに接した側でIP3濃度が上昇することがわかった。この非対称性に一致して、IP3によって誘導されるカルシウム放出も不均一に分布した。次に研究チームは、IP3の産生や作用を阻害したり、人工的にIP3の濃度勾配を作ったりして、IP3と成長円錐の方向転換の関係を詳細に調べた。その結果、IP3を阻害すると成長円錐はまっすぐ伸び、人工的に濃度勾配を作製すると成長円錐は濃度の高い方へと回り込んだ。これらのことから、IP3の濃度勾配は軸索の方向転換と直接相関しており、成長円錐は、高いNGF濃度、IP3濃度、およびカルシウムイオン(Ca2+)放出量によって規定された方向へ回りこむことが明らかになった(図1)。

今回の成功は、IP3の分布のわずかな差を正確に検出する手法が開発されたことが、大きな決め手となった。上口TLは、「成長円錐の両側において、IP3センサーから放出される蛍光の1%の差を検出する必要があったのです」と振り返る。

上口TLはまた、このような勾配が成長円錐の10~20ミクロンというせまい幅で存在すること自体、非常に驚くべきことだと考えている。「IP3は、細胞質内で速やかに拡散するので、これまで高度に局在化するメッセンジャー分子だとは見なされていませんでした。今回の結果は、IP3シグナルを成長円錐の片側に限局させるための、速い分解機構の存在を示唆しています」と上口TLは語っている。

神経細胞は、方向特異的なシグナル伝達プロファイルをどうやって確立しているのだろうか。そのメカニズムに関して今回得られた手がかりは、細胞の極性化や移動に関するほかのモデルを理解するうえでも意義ある出発点になると期待される。

本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、脳科学総合研究センター・神経成長機構研究チームまでお問い合わせください。

  1. Akiyama, H., Matsu-ura, T., Mikoshiba, K. & Kamiguchi, H. Control of neuronal growth cone navigation by asymmetric inositol 1,4,5-trisphosphate signals. Science Signaling 2, ra34 (2009).   article