神経回路のダイナミックな変化をとらえるのに成功
12 February 2010
脳の視覚野にある抑制性の神経細胞は、片目からの視覚入力を遮断すると、視覚刺激に対する応答が二方向に変化する

図1: 哺乳類の視覚野にある抑制性介在細胞を描いたイラスト。これらの神経細胞は、視覚刺激に対する錐体細胞の反応に影響を及ぼしている。
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哺乳類が両目をふさがれることなく普通に成長するとき、大脳皮質の左右の視覚野にある錐体細胞とよばれる神経細胞は、左右どちらか一方(通常は細胞のある側と左右逆)の目から入る光刺激に「優位に」反応するように成熟している。しかし、成長過程の特定の時期(臨界期)に片目がふさがれると、錐体細胞は反応の対象を切り替え、開いているほうの目に入る光刺激に優位に発火するようになる。最終的に視覚野では、ふさがれた目の脳内表現がなされなくなり、その目の視力は大きく低下する。
錐体細胞は視覚野内で、抑制性介在細胞とよばれる神経細胞から刺激を抑制させる信号を受け取るが(図1)、こうした抑制性細胞が視覚剥奪にどのように反応するのか、また錐体細胞の反応可塑性の誘導にどんな役割を果たすのかはこれまで不明であった。しかしこのほど、理研脳科学総合研究センター(BSI;埼玉県和光市)神経回路発達研究チームのヘンシュ貴雄チームリーダー(TL)らは、抑制性細胞も錐体細胞と同様に、一方の目をふさいだ後に光刺激に対する反応性を変化させることを明らかにし、『Nature』に発表した1。しかし意外なことに、抑制性細胞は錐体細胞と違って二方向の変化を示した。錐体細胞では、開いている目に優位に反応するようになる一方向の変化しかみられないが、抑制性細胞では、最初はふさがれた目に反応し、しばらくすると開いている目に反応するように優位性が移行するのである。
また、抑制性細胞から錐体細胞へ伝わる信号を遮断すると、両目が開いているマウスの場合、錐体細胞の一方の目に対する反応の優位性が失われたのに対し、片目をふさいだマウスの場合、錐体細胞の反応の優位性は一方の目からもう一方の目へと逆転した。この結果から、抑制性細胞から錐体細胞へ伝えられる信号が、正常な視覚と視覚剥奪の両方で錐体細胞の反応の制御に関与していることがわかった。
次にヘンシュTLらは、深井朋樹チームリーダー(脳回路機能理論研究チームの)をはじめとするBSIのほかの研究者と合同で、神経細胞間の結合や結合の可塑性が錐体細胞と抑制性細胞の反応をどのように引き起こすのかを理解するために、ネットワークモデルを構築した。このモデルから、神経細胞回路の個々の要素が脳内の可塑性にどのように寄与しているかが明らかになった。
「現在我々は、可塑性の詳細なメカニズムの解明を進め、治療介入部位を特定することをめざしています」とヘンシュTLは語る。抑制性細胞が幼若期の脳の可塑性を決定するメカニズムが明らかになれば、神経細胞のそれぞれの種類に適した戦略を取ることで、自閉症や統合失調症などの精神疾患で損なわれている脳機能を回復または再活性化できるのではないかと期待される。
本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研脳科学総合研究センター・神経回路発達研究チームまでお問い合わせください。
- Yazaki-Sugiyama, Y., Kang, S., Cateau, H., Fukai, T. Hensch, T.K. Bidirectional plasticity in fast-spiking GABA circuits by visual experience. Nature 462, 218–221 (2009). article