Research Highlights :

そのトマト、どんなトマト?

10 June 2011

遺伝子組換え生物の化学的多様性を評価することは、その安全性を判断するための重要な第一段階である


図1: 遺伝子組換え(GM)トマトと在来品種のトマト 左から右へ:Moneymaker(遺伝的背景が同一の対照品種)、56B(GM)、7C(GM)、Aichi First、Alisa Craig、M82、Micro-Tom、Rutgers。

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参考文献1から転載 © 2011 Tadayoshi Hirai

遺伝子組換え(GM)トマトは、在来品種と同じように見える(図1)。しかし、本当に同じなのであろうか。このほど、理研・植物科学研究センター(神奈川県横浜市)メタボローム研究推進部門の斉藤和季部門長率いる研究チームが、GMトマト株と対照株および既存の参照品種との化学的な差から両者を識別する方法を開発した1

消費者にとって、GMトマトが安全であるという確証は重要である。このため、最初のリスク評価で、化学的組成が在来品種と「ほぼ同等」であることを示さなければならない。研究チームは、GMトマトと在来品種で化学物質や代謝産物の相違を調べ、GMトマトで変化する代謝産物を同定した。代謝は生命維持に関与する重要な過程で、タンパク質、核酸、炭水化物の合成と分解もこれに含まれる。複雑な代謝経路には多数の酵素が関与し、細胞や組織の化学的な構成要素の流れを一定に保持している。解析には、メタボローム解析(メタボロミクス)の手法を用いた。メタボロミクスとは、生命活動で生じる代謝産物を網羅的に解析する研究分野である。

今回、研究チームが実験対象にしたのは、ミラクリンをコードする外来遺伝子を過剰発現しているGMトマトである。ミラクリンは、本来はある種の熱帯植物に含まれ、トマトには存在しない物質だ。短い糖の側鎖を持つタンパク質、糖タンパク質であり、酸味を甘味に変えるという注目すべき能力を持つ。「ミラクリンは砂糖に比べて低カロリーであり、天然甘味料や矯味料としての可能性を秘めています」と、斉藤和季部門長は話す。

残念ながら現時点では、代謝物すべての分離および特性解析を単独でできる方法は、存在しない。そこで研究チームは、複数の解析手法を組み合わせて、ミラクリンを過剰発現するGMトマトと在来品種の化学的な相違を評価した。斉藤部門長は、「複数の解析手法を用いたことで、GMトマトと在来品種の代謝物を自動的に同定し、強力な統計的手法で両者の差を評価することが可能になりました」と言う。

解析の結果、成熟GMトマトの代謝プロファイルには再現性が認められた。また、GMトマトの代謝産物の92%以上は在来品種と類似しており、両者の差は許容範囲内にあった。

斉藤部門長は、今回の解析についてこう語る。「我々の目的は、GMトマトの安全性を示すというよりも、在来品種との化学的な差を調べ、問題になる可能性のある代謝物を可能な限り絞り込んで、今後の研究指針を得ることでした」。研究チームは、今回のような複数のメタボローム解析を組み合わせた手法が、あらゆるGM生物の客観的リスク評価の第一段階になりうることを確信している。

本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研植物科学研究センター・メタボローム研究推進部門までお問い合わせください。

  1. Kusano, M., Redestig, H., Hirai, T., Oikawa, A., Matsuda, F., Fukushima, A., Arita, M., Watanabe, S., Yano, M., Hiwasa-Tanse, K., Ezura, H. & Saito, K. Covering chemical diversity of genetically-modified tomatoes using metabolomics for objective substantial equivalence assessment. PLoS ONE 6, e16989 (2011). article