自己免疫の安全装置
22 June 2012
炎症反応に中心的な役割を果たす調節因子は、自己免疫疾患の有望な治療標的になると期待される

図1: 正常マウス(上)と比べて、PDLIM2欠損マウス(下)の肝臓には肉芽腫形成がかなり多く見られる。肉芽腫は、ヘマトキシリン・エオシン染色により黒っぽい斑状に見える(スケールバー:100μm)。
enlarge imageReproduced from Ref. 1 © 2012 AAAS
生体が細菌に感染すると、感染細胞を隔離しようとする働きにより「肉芽腫」という構造体が形成される場合がある。「免疫細胞の一種であるマクロファージが細菌に感染すると、T細胞や好中球などの他の免疫細胞に取り囲まれます。こうすることで、破壊しにくい病原体を隔離し、感染を特定領域内にとどめるのです」と、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(神奈川県横浜市)の田中貴志ユニットリーダー(UL)は説明する。
この反応は一般には有益だが、例えば炎症反応が適切に調節されない自己免疫疾患の患者などでは、有害な過剰反応を招くおそれがある。田中ULの研究チームは今回、北海道大学の松田正教授の研究室と共同で、肉芽腫形成過程における重要な調節チェックポイントの存在を明らかにした1。この知見は、従来よりも有効な免疫調節薬の開発につながる可能性がある。
研究の歴史を振り返ると、免疫系を構成するヘルパーT細胞のうちTH1細胞と呼ばれる一群が、すでに自己免疫と関連付けられている。田中ULは過去の研究で、PDLIM2と呼ばれるタンパク質がTH1細胞の分化と産生を制限するように作用していることを明らかにしている2。近年には別の研究チームが、同じく自己免疫過程に寄与するTH17と呼ばれるヘルパーT細胞集団を同定しているが、その役割はよくわかっていなかった。そのため田中ULは、PDLIM2がTH17細胞の調節にも関与しているのかどうかを見極めることにしたのである。
研究の結果、PDLIM2をコードする遺伝子を持たないマウスでは、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)という細菌の感染に反応して、この遺伝子を持つマウスよりも多数の肉芽腫が形成されることが判明した(図1)。また、この過程がTH17細胞の作用に依存することも明らかになった。研究チームは実際、過去にTH1細胞の分化で確認されたのと同様に、PDLIM2がCD4+ T細胞のTH17細胞への分化を直接抑制することを明らかにしている。PDLIM2タンパク質は、他のタンパク質が速やかに分解されるための目印を付ける働きをするが、研究チームは、これがTH17細胞の分化に関与する遺伝子を活性化するシグナル伝達タンパク質STAT3の破壊を特異的に促進することを明らかにした。これらの炎症誘発細胞の形成を抑制するPDLIM2が存在しなければ、免疫反応は手に負えない状況に陥ってしまうおそれがある。
このことから、PDLIM2は自己免疫に対する重要な安全装置になっていると思われる。「最近の研究で、TH1細胞群とTH17細胞群は互いに排他的ではなく、協調して炎症反応を誘導していることが示唆されています。今回の我々の研究では、PDLIM2がこの2つの細胞群の分化を負に調節している可能性があること、したがってヒトの自己免疫疾患や炎症性疾患の新しい有用な治療標的となりうることが明らかになりました」と田中ULは語る。研究チームは現在、PDLIM2の上流および下流で作用する調節因子を見つけ出したり、この系が喘息や創傷治癒などで見られる他の炎症過程にどのように影響を及ぼしているのかを明らかにすることで、このタンパク質の機能をさらに解明したいと考えている。
本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター・炎症制御研究ユニットまでお問い合わせください。
- Tanaka, T., Yamamoto, Y., Muromoto, R., Ikeda, O., Sekine, Y., Grusby, M.J., Kaisho, T. & Matsuda, T. PDLIM2 inhibits T helper 17 cell development and granulomatous inflammation through degradation of STAT3. Science Signaling 4, ra85 (2011). article
- Tanaka, T., Soriano, M.A. & Grusby, M.J. SLIM is a nuclear ubiquitin E3 ligase that negatively regulates STAT signaling. Immunity 22, 729–736 (2005). article