生体防御の第一歩
29 June 2012
特定の免疫細胞群が感染への防御体制を整え、同時に、害を及ぼすおそれのある炎症反応を抑制する仕組みが明らかになった
リンパ球の一種であるT細胞は、免疫系の「実動部隊」の重要な構成要素であり、感知された脅威に対する攻撃作用を促したり、仲間の免疫細胞が有害な自己免疫応答を引き起こすのを抑えたりしている(図1)。このT細胞のコントロールに関与しているのが樹状細胞(DC)で、抗原の断片をT細胞へ提示することにより、T細胞の適切な反応を促す働きをする。
しかしながら、DCの生物学的特性の詳細は、免疫系のあらゆる細胞がそうであるのと同様、これよりはるかに複雑だ。「DCは、通常型DCや形質細胞様DCなど性質の異なる細胞群からなっています。免疫応答における各種DC群の機能的役割について、詳細はまだよくわかっていません」と、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(神奈川県横浜市)の佐藤克明チームリーダー(TL)は説明する。佐藤TLが特に関心を持っているのは形質細胞様DCだ。この細胞の生体内での振る舞いは、これまでの実験データからはほとんど解明されていないからである。
このたび、佐藤TLは日本およびフランスの研究者らと共同で、マウスの形質細胞様DC集団を選択的に除去することに成功、それによって得られた形質細胞様DCの機能に関する詳細な解析結果を報告した1。研究チームはまず、形質細胞様DCを選択的に除去するため、これらの細胞で特異的に発現されるタンパク質Siglec-Hをコードする遺伝子の中に、毒素受容体遺伝子を挿入した。これにより、Siglec-H産生細胞(つまり形質細胞様DC)を迅速に除去することができただけでなく、毒素受容体遺伝子の挿入によってSiglec-Hの発現が効率的にノックアウトされたことで、形質細胞様DCにおけるSiglec-Hの機能的寄与についても判明した。
形質細胞様DCは、ウイルスや細菌などの病原体の存在に特異的に反応するtoll様受容体9(TLR9)と呼ばれるタンパク質を発現する。研究チームは今回、形質細胞様DCがTLR9の活性化に反応してさまざまな炎症性シグナルを生じるものの、これらのシグナルレベルは通常、Siglec-Hの阻害作用によって調整されていることを発見した。このことから、Siglec-H は形質細胞様DC内の重要な調節分子だと考えられる。
今回の実験によって、形質細胞様DCが感染に対する応答に中心的役割を果たしており、炎症反応経路と、病原体を破壊する細胞傷害性Tリンパ球の産生の両方を駆動することが確認された。しかしながら、形質細胞様DCはこのほかにも、免疫系を監視して危険性のない抗原に過剰反応しないようにする「末梢性寛容」という過程にも大きな役割を果たしていると考えられる。形質細胞様DCの発するシグナルは、他の免疫細胞を活性化する抗原特異的ヘルパーT細胞の産生を阻害し、免疫応答の抑制に寄与する制御性T細胞の産生を促していたのだ。
形質細胞様DCが制御性T細胞の産生を促すという結果は意外であったため、佐藤TLは今後、形質細胞様DCとヒトの健康の関連を深く調べたいと考えている。「自己免疫疾患の抑制に形質細胞様DCおよびその調節が果たす役割を解析するつもりです」と佐藤TLは語っている。
本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター樹状細胞機能研究チームまでお問い合わせください。
- Takagi, H., Fukaya, T., Eizumi, K., Sato, Y., Sato, K., Shibazaki, A., Otsuka, H., Hijikata, A., Watanabe, T., Ohara, O. et al. Plasmacytoid dendritic cells are crucial for the initiation of inflammation and T cell immunity in vivo. Immunity 35, 958–971 (2011). article
