Research Highlights : Biology

肥料に代わる遺伝子操作

20 July 2012

植物が窒素欠乏環境で発現させる輸送タンパク質の遺伝子操作によって、窒素肥料の使用を減らすことができるかもしれない


図1: 緑色の蛍光は、シロイヌナズナの根で硝酸イオン輸送体遺伝子NRT2.4の発現が活性化されている部位を示す。窒素が超低濃度の場合には発現が観察される(左)が、土壌中に十分量存在する場合には観察されない(右)。

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©2012理研植物科学研究センター木羽隆敏

土壌から窒素栄養が失われると作物の収量に悪影響が及ぶことは、複数の研究から明らかになっている。現在使用されている窒素肥料は、収量を向上させて世界の膨れ上がる食糧需要を満たしてきた。しかし一方で、施肥される窒素の多いときには半分もが硝酸イオンとして周囲の水域に流れ込み、水質汚染を引き起こしている。窒素肥料の使用量が世界的に年々急増している中、植物がどのように硝酸イオンを吸収しているのかを理解し、作物がより効率よく硝酸イオンを吸収できる方法を明らかにすることが、今本質的に求められている。

シロイヌナズナ(Arabidopsis)では、窒素欠乏条件下でNRT2.4とよばれる硝酸イオン輸送タンパク質の遺伝子発現が誘導される。このタンパク質が、ごく微量ではあるが生存に必要な硝酸イオンの吸収を可能にしているのだ。このたび、理研植物科学研究センター(神奈川県横浜市)生産機能研究グループの木羽隆敏研究員をはじめとする研究チームは、フランスおよびイギリスとの共同研究で、NRT2.4がどのような機構で低窒素環境下の植物に恩恵をもたらすかについての洞察を得た1

「窒素は、植物の生長や生産力にとって極めて重要な栄養素の1つですが、植物が土壌中の窒素濃度をどのように感知し、それに応答するのか、その機構はまだ十分には解明されていません。これこそが、今回我々がNRT2.4遺伝子に注目した理由です」と木羽研究員は説明する。

研究チームが、緑色蛍光タンパク質およびレポーター酵素を利用してNRT2.4発現の有無とその部位を追究したところ、シロイヌナズナ実生の根および地上部で発現が認められた(図1)。

研究チームはさらに、播種後10日目のシロイヌナズナの実生(1本当たり約1 ㎎)を用いて、吸収された微量の硝酸イオンを測定した。「超低濃度の硝酸イオンの流入を検出することが、この研究における最大の課題でした。有効なデータを得るには、反応系や測定法の精度を向上させる必要がありました」と、木羽研究員は語る。研究チームは、試料を慎重に調製してから、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および自動N/C測定用質量分析装置(ANCA-MS)で硝酸イオン濃度を測定した。

すると、この試みにより精度は見事向上、研究チームは、シロイヌナズナが超低濃度硝酸イオンの吸収量を高めるうえで、NRT2.4遺伝子が極めて重要であることを示す結果を得ることができた。しかしながら、この知見はすべての植物に当てはまるわけではない。「予備的な検討によれば、作物として栽培されている植物の一部には、シロイヌナズナのNRT2.4に相当するような機構を1つも持ち合わせていないものがあります。施肥環境下にある栽培植物では、必要がないためにそのような機構が失われてしまったのかもしれません」と木羽研究員は解説する。

将来的には、NRT2.4 遺伝子を作物に導入することで、窒素吸収の効率を上げることも可能になるかもしれない。木羽研究員は、「最終的には、窒素肥料の使用を減らし、持続可能な農業を容易に実践することができようになるかもしれません」と語っている。

本ハイライトの原著論文の著者情報などについては、理研植物科学研究センター生産機能研究グループまでお問い合わせください。

  1. Kiba, T., Feria-Bourrellier, A.-B., Lafouge, F., Lezhneva, L., Boutet-Mercey, S., Orsel, M., Bréhaut, V., Miller, A., Daniel-Vedele, F., Sakakibara, H. & Krapp. A. The Arabidopsis nitrate transporter NRT2.4 plays a double role in roots and shoots of nitrogen-starved plants. The Plant Cell 24, 245-258 (2012). article